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「兄が父の遺言書を預かっていると主張している。有効かどうか鑑定できるか?」といった相談が探偵社にも時々あります。
まず、お父さんがすでに亡くなっている場合、遺言書の有効性を争っても簡単でないことをご紹介します。
しかし、お父さんがまだ存命の段階だと、探偵が別の角度から攻めて逆転するチャンスがあります。
動くなら早い方がいいということです。
(株)MJリサーチ 取締役 若梅秀孝 氏
相続関係調査への注力は同社の大きな特長のひとつ。
若梅氏は経験20年以上のベテラン探偵。
相続診断士の資格も持つ。
相続・終活関連の講義や講演も行っている。
MJリサーチ 探偵業届出番号:東京都公安委員会 第30200349号
事例紹介の前に、理解に必要な基礎的なことをお伝えします。
遺言書の有効性に関する争点は次の2点です。
遺言書には、法律で定められた形式をそなえている必要があります。
法的要件を満たしているかどうかの判断は弁護士の守備範囲で、探偵にできることはありません。
筆跡の真贋は、専門の鑑定業者の守備範囲です。
そういう業者は一般の方からの注文は受けていない場合が多い。
だから探偵社が取り次いで差し上げることはできますが、それ以上のことはできません。
遺言書の有効性判定を探偵が請け負うというのは、フィクションの世界です。
探偵の本領は、被相続人が存命のうちに遺言書そのものを破棄・変更させるところにあります。
遺言書が問題になる背景には、かならず相続人同士の争いがある。
そこに深く切り込んで、被相続人(遺言書の書き手)の意思を変える材料をつかむということです。
よく使われる遺言書には「公正証書遺言」と「自筆証言遺言」の2種があります。
(「秘密証言遺言」「特別方式遺言」については割愛します。)
公証役場に行って公証人に作成・保管してもらう遺言です。
法的有効性は完璧で争う余地はありません。
被相続人が自筆する遺言で、私的に保管する場合と遺言書保管制度を利用して法務局に預ける場合があります。
自筆証言遺言は相続争いの種になりやすく、争点は次の2点です。
自筆証言遺言の法的要件
①に関して、ワープロ文書、代筆、録画、録音は法的には無効です。
実は遺言書の法的要件や筆跡の真贋だけで争うことにそもそも限界があります。
被相続人が既に亡くなった時点で遺書を持ち出された場合、覆すのはかなり難しくなっています。
まず、法的要件は満たしていて、筆跡の真贋だけが問題の場合を考えてみましょう。
実は、筆跡鑑定の信頼性は100%ではありません。
素人目にも全然似ていない筆跡なら高精度で判定できます。
しかし、偽造品を真正と主張する場合、相手も全力で本物に似せてきます。
その場合、信頼性は80%、70%、60%という具合に低下します。
グレーな判定しか出ないわけです。
一方、遺言書の破棄・偽造・変造した者は民法891条の相続欠格の条件に該当し、相続できなくなります。
(有印私文書偽造罪【刑法159条1項】などにも該当しますが、逮捕されて刑事罰まで受けるのは稀です。)
非常に白黒はっきりしてしまうわけです。
誰かが遺言書を発見して、それが偽造品だった場合なら、偽造者はだれかわかりません。
そういう場合は、遺言書が無効になって通常どおり遺産分割協議をするだけです。
しかし、長男が預かっていた場合は誰が偽造者か明白です。
つまり、遺言書が有効か、長男が相続の資格を失うかという、極端な二択しかなくなるわけです。
筆跡鑑定のグレーな証拠だけで、そんな白黒はっきりした結論が出せるか?
もし間違いだったら誰が責任を取るんだ?という話になります。
そこで偽造を争う場合は、他の証拠も併用するのが普通です。
しかし、被相続人が既に亡くなっていて、上記のような記録も残っていない場合、争うのは難しくなります。
結局、遺書は有効として進行するケースが多くなります。
先ほど、法的要件を満たさない自筆遺言や録画、録音による遺言は法的には無効だと述べました。
しかし、全く何の効力もないとは限らず、被相続人の意思表示として効力を認められる場合があります。
「そんなのおかしいじゃないか?!」という意見もあるでしょう。
しかし、本人が正常な状態で書いた遺言書なのに、法律知識がなかったために要件を満たしていない場合もあります。
文章を自筆できる健康状態ではなく、録画・録音に頼る場合も考えられます。
急病や事故で死期の近いことを悟り、その時に可能な方法で遺言を残すことも考えられます。
それなのに法的要件を満たさないものはすべて無効とするのも、人間社会の実情に合わない極端な基準だと言えます。
こういう事情を見越して、「被相続人の意思表示の証拠」作りが盛んに行われます。
被相続人の介護の際などに、折に触れて次のような会話を録音・録画をします。
「お父さんは私たちに任せてほしいんだよね?」
「うんうん、お前たちにお願いするよ。」
相手は遺産相続の話と理解しているとは限らず、そもそも認知症の場合も多い。
そして死後にこうした録画・録音を、相続を指示した遺言書に準ずるものだと主張するのです。
それまで疎遠だった長男・長女などが急に甲斐甲斐しく親の世話をするようになったのですか?
「さすが。いざとなると長子の責任感はある。助かるわ。」なんて安心するのはお人よしが過ぎます。
介護の合間にせっせとこんなことをしている可能性があります。
警戒してあなたも親の介護に関与すべきです。
親の認知症が進行したり、病気や老衰で死期が近づいたら、以上のことに気をつけてください。
積極的に世話をしてくれる兄弟には感謝すべきですが、同時に不審な兆候がないか注意してください。
親との接触を常に保ち、遺言書を書かされたり、他の兄弟の悪口を吹き込まれていないか、注意しましょう。
兆候があれば、こちらも早めに動き出すことです。
親が亡くなって遺言書を持ち出された時には、すでに打ち手はほとんどなくなっています。
【MJリサーチ若梅探偵】
MJリサーチの若梅氏に、同社での事例を紹介していただきます。
「父と相続について話がついており、遺言書も預かっている。」と兄から言われている。
遺言書が出されてきた場合、筆跡鑑定はできるか?
ーーー相談のきっかけはこんな話でした。
被相続人であるお父上はまだご存命ですが、すでに初期の認知症です。
以前は親と疎遠だった長男が最近父親の世話をよく焼くようになり、いつの間にかそんな話を進めていました。
突然の申出に困惑された弟さんからのご相談でした。
まず、遺言書の有効性だけで争っても勝ち目が少ない事、遺言書が出てきてからでは遅いということをご説明しました。
その上で長兄の動きを探ってみることをご提案しました。
長兄は離婚して一人住まいです。
収入源は不明ですが働いておらず、自宅を張り込んでいても動きがありません。
しかし、しばらくすると全く予想外の動きが出てきました。
別れた前妻と会っていることが掴めたのです。
この前妻は義父(依頼者と長兄の父親、被相続人)との大喧嘩がきっかけで離婚した人。
依頼者の他の兄弟とも大の不仲です。
元の家と関わりたくないはずの人物が、なぜ今もつながっているのか?
長兄と前妻の間には大きな子がいます。
将来、長兄が亡くなった時、前妻は相続権がありませんが、実子は離婚した妻との間の子でも相続第一順位です。
将来の我が子の相続に向けて、前妻が前夫の資産増加を画策していることは容易に想像できました。
そこで、動きの少ない長兄から前妻に監視対象を切り替えることを提案し、早速行動を開始しました。
ほどなく弁護士事務所への出入りが確認され、子供もいっしょに動いていることが判明しました。
前夫とともにその父親が所有する海辺の別荘に出入りするのも確認できました。
その別荘は国内有数の海浜リゾートの近くに立地し、相続財産の中でも特に価値が高いものです。
長兄はこの別荘は自分が相続することで父と話がついていると言います。
そして他の財産については、法定相続分に近い形で長兄が少し多めだとか。
弟(依頼者)はそんなことを父が言うはずがないと思いますが、直接問いただすことができずにいます。
清掃やメンテを口実に鍵を預かっているのでしょうか?
長兄と前妻は海辺の別荘に自宅のように出入りし、何かの工事業者との打ち合わせまでしています。
「(近所の噂等で)前の嫁が別荘に出入りしているのを掴んだ」とお父上に知らせてみてはどうか、と提案しました。
少し認知症が始まっていたとしても、激怒するはずです。
その上で「もっと調べてみようか?」とお父上に提案してみては、と。
このクサビは、これまで長男主導でなんとなく進んでいた相続話をご破算にし、父上の気持ちを大きく転換させる可能性があります。
調査は現在進行形です。