「興信所って何?」というのは非常に多くの人が疑問に思うところです。
また「探偵事務所」「探偵社」と何が違うのかもよく問題になります。
歴史資料の出典なども示しながら、正確に解説します。
興信所と探偵社は日本ではともに明治時代に別種の業者として生まれました。
しかし、遅くとも平成の頃には区別は消失しており、現代では両者は同じものです。
同化した事情は後で述べます。
ただ、別物と思っている方もおり、今も区別があるかのような誤った解説も散見されます。
そのため業者はしばしば「○○探偵社興信所」などと両方の呼称を名乗ります。
少しでも検索に引っ掛かりやすくして集客を増やすためです。
今では「自分でどう名乗るか」だけの問題と捉えていただいて結構です。
政府の産業分類
総務省が定める日本標準産業分類(JSIC)では、探偵社も興信所も「7291 興信所」です。
探偵業法
尾行・張込み・聞き込み等を行う調査業は、探偵業法(※)の適用対象です。
※「探偵業の業務の適正化に関する法律」の通称。2006年成立、2007年施行。
探偵社、興信所はもちろん、○○リサーチ、○○調査の呼称であっても、業務内容が同様なら探偵業法の対象です。
(市場調査、世論調査、地質調査、報道業などは無関係です。)
探偵社・興信所の経営には公安委員会への届出が必要で、届出をして探偵業法はじめ法令に則って行う調査業務は合法です。
参考:探偵業の業務の適正化に関する法律(Wikipedia)
参考:探偵業法条文
業界内部者の声
当サイトはこれまで多数の大手探偵事務所に取材していますが、探偵社と興信所に現在違いがあると答えた方は1人もいらっしゃいません。
興信所(探偵社)は何をしてくれるところなのか?
主には下表のようなサービスです。
浮気調査 | 不倫デートを尾行し、写真・動画で証拠を取る。 |
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人探し |
現在は家族の依頼による家出人探ししか請け負わない業者が多い。 |
結婚調査 |
婚約者の素性や評判を、尾行・聞き込み・データ調査などで調べる調査。 |
身辺調査 | 採用予定者、未知の取引相手などの素性や普段の行動を調べる調査。 |
仕事の比率は、業界平均で浮気調査7割、人探し2割、その他1割くらい。
得意分野は会社によって違いますが、一般的には浮気調査に大きく依存しており、浮気調査専門のところも多いです。
興信所と探偵社は、日本における調査業の二大源流であり、それぞれ異なる起源と発展を遂げてきました。以下、その歴史をまとめます。
興信所の意味の変遷
興信所とはもともと企業の信用調査業を意味しました。
企業の財務の健全性、倒産の危険性、事業の現状と将来性などを調べる仕事です。
今日の帝国データバンク(TDB)や東京商工リサーチのような業種のことで、事実この2社は興信所発祥です。
しかし、今日ではTDBのような企業の信用調査業を興信所とは呼ばなくなっており、興信所は探偵社と同義語になっています。
半官半民の興信所
明治時代、日本の商工業が発展する中で、取引先の信用調査の必要性が高まりました。
これに応じて、1892年(明治25年)に大阪で日本初の興信所である「商業興信所」が設立されました。
これは、日本銀行の理事であり、関西実業界の重鎮であった外山脩造(とやましゅうぞう)が設立したもので、日銀と大阪の銀行団が出資した半官半民的な性格を持っていました。
【外山脩造】
さらに、1896年(明治29年)には、第一銀行頭取の渋沢栄一が「東京興信所」を設立しました。
両興信所は戦時中に統合され、戦後に異業種に転業した後、消滅しました。
民間系の興信所
商業興信所の設立と同年、民間人の白鳥敬之助が東京で「商工社」(現・東京商工リサーチ)を設立しています。
1900年(明治33年)には、後藤武夫が帝国興信社を設立、2年後に法人化して帝国興信所に改名。(現・帝国データバンク)
帝国興信所は大正時代には全国54拠点の日本最大の興信所になります。
一方、探偵社の歴史は、1895年(明治28年)に元刑事の岩井三郎が東京・日本橋に設立した「岩井三郎事務所」に始まります。
これは、日本初の私立探偵社とされています。
岩井三郎は警視庁在任中、日清戦争当時に外国のスパイ摘発にも実績のあった敏腕刑事であり、30歳の時に「日本にも私立探偵を!」という志を立てて退官し、探偵社を設立しました。
岩井三郎事務所は戦後まで三代続きました。
提供サービスの重複進行
当初、興信所は企業の信用調査を主な業務とし、探偵社は個人の内密な調査を行うなど、明確な業務の違いがありました。
しかし、興信所が採用予定者の身辺調査や結婚調査などの個人調査分野に進出。
時代の進展とともに、両者の業務内容は徐々に重なり合うようになりました。
本家興信所の退場
戦後国内最大の興信所になっていた帝国興信所が、1981年帝国データバンクに改名します。
参考:帝国データバンク公式社史
悪質業者が増えてイメージが低下していた「興信所」の呼称と決別し、個人調査から完全撤退して企業信用調査専業になりました。
これ以降、「興信所」という言葉から「企業信用調査業」という意味が消失していきます。
探偵業法で同枠扱い決定
2007年(平成19年)に「探偵業の業務の適正化に関する法律」(探偵業法)が施行されます。
明治時代に探偵業が誕生してから100年以上の間、探偵を規制する法律は皆無でした。
昭和後期から平成にかけて悪徳探偵による消費者トラブルが激増して社会問題化。
これを正すために葉梨衆議院議員の議員立法で作られたのが探偵業法です。
【葉梨康弘著 探偵業法】
この法律の中で興信所も探偵業者として扱われることが決定されました。
探偵社と興信所は、法的には同一物であることが確定したのです。
このように、興信所と探偵社はそれぞれ独自の起源を持ちながらも、社会の変化と法整備の進展に伴い、その区別がなくなり、現在では同一視されるに至っています。
興信所はもともと企業信用調査業のことで、副次サービスとして身分を明かして採用予定者や婚約者の身元調査を行っていました。
探偵社は、主に浮気調査など秘密裡に調査する業務に当たっていました。
しかし、帝国データバンクなどの企業信用調査業の主役は、「興信所」の呼称と訣別し、今は「興信所」に「企業信用調査業」の意味はなくなりました。
個人調査を続けていた興信所は探偵社と同一視されるようになり、今は興信所と探偵社に区別はありません。