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探偵になるのに資格や免許は必要なのかという質問がよくあります。
これに関係するトピックをまとめました。
探偵社に採用されて探偵として働く場合、特別なことは何も必要ありません。
配属されてすぐに尾行、張り込み、撮影などを行います。
物販店や飲食店の店員、サラリーマン、工員などと何も変わりません。
免許も資格も不要
確かに雇用されて行う仕事でも資格や免許が必要なものがあります。
例えば、不動産屋に勤務して重要事項説明を行うには、宅建士の資格が必要です。
電気工事を行うには電気工事士の免許が必要です。
フグを調理するにはフグ調理師免許が必要です。
雇われ探偵には、そういう資格や免許も必要ないのです。
ただし、雇用されている社員探偵であっても役員は後で述べる届出が必要です。
雇われるのではなく、経営する場合は、公安委員会に「届出」をする必要があります。(探偵業法 第四条)
個人事業主も法人経営者も同じです。
「届出」は「免許」や「認可」とは違い、審査もない書類提出手続きで、警察署経由で提出します。
探偵学校の卒業証書も実務経験も求められません。
なんと、未経験者でも、書類が揃えば開業できてしまうのです。
実際にちゃんとした仕事ができるかどうかは別の話ですが。
届出要領
必要なのは下記の3点で、添付書類が個人業者か法人で違います。
③添付書類の内容
個人 | 履歴書/住民票の写し/誓約書(欠格事項に該当しない旨)/身分証明書(市区町村発行)/未成年の場合、規定の書類 |
---|---|
法人 |
定款の謄本/登記事項証明書/全役員について次の書類 |
届出は各拠点の地元の公安委員会にするルールになっています。
例えば、東京本社で名古屋と大阪に支社がある場合、東京本社で一括提出するわけではありません。
東京本社は東京都公安委員会、名古屋支社や愛知県公安委員会、大阪支社は大阪府公安委員会にそれぞれ提出します。
公安委員会に直接ではなく、すべて地元警察署経由で提出します。
届出証明書
届出をすると届出証明書が交付されます。
これを営業所の見やすい場所に掲示することが義務づけられています。(探偵業法 第十二条の2)
【クロル探偵社・埼玉拠点の届出証明書】
探偵になる、あるいは開業するのがあまりに簡単なので拍子抜けしたのではないでしょうか。
今からこの制度の良い面と悪い面を見ていきます。
現制度の良い面
日本に探偵業が誕生したのは明治時代ですが、それから100年以上に渡って探偵を規制する法律が存在しませんでした。
もちろん他人の敷地に入れば住居侵入罪で、スピード違反は道路交通法で罰せられました。
それは普通の人と同様の規制を受けたのですが、探偵業を直接取り締まる法律は皆無でした。
業界の実態を把握できるようになった
昭和の終わりから平成の前半にかけて、悪徳探偵の被害が社会問題にまでなりました。
業者が増加を続けていることは確かでしたが、統計もなく、数は不明でした。
全国のどこにどんな探偵社があるのか、統一名簿などもなかったのです。
探偵業界を健全化するために、2006年に探偵業法が制定され、2007年に施行されました。
その中で業者の事業所単位での届け出が義務付けられました。
これにより、ようやく業界の実態がわかるようになりました。
暴力団を排除できた
先ほど、届出だけで審査もないと書きましたが、実はそれに替わるものが組み込まれています。
「欠格事由」といって、探偵業の経営が許されない条件が定められているのです。
具体的には、暴力団員、禁錮以上の刑で刑務所を出て間もない人、復権していない破産者などです。
届出の際には、欠格事由に該当しない旨の誓約書を提出し、いったんは受理されて届出証明書を交付されます。
その後、警察が誓約書に嘘がないかチェックし、問題があれば営業停止や廃業の命令を出せます。
この仕組みにより、探偵業法以前に大きな問題になっていたヤクザ探偵社を排除できました。
探偵業法ができてから、探偵への依頼は比べ物にならないくらい安全になりました。
現制度の悪い面
現制度の悪い面は、実務能力の認証がまったく欠落している点です。
届出をしている合法業者であるというだけでは、そういう能力が保証されません。
未経験でも届出できるのだから当然です。
消費者からすると能力レベルを何で判断すればいいのかわかりません。
だからハズレ業者に当たってしまい、レベルの低い仕事にがっかりする事態は今も多発しています。
悪徳ヤクザ探偵の被害が激減したのは大進歩だけれど、もう一歩の進歩が望まれるわけです。
こうした現状に対し、業界団体が検定試験を創設する動きもみられます。
ただ、まだまだ普及しているとはいいがたく、資格保持者は少ないです。
日本探偵業協会
有名探偵社G8リサーチの島耕一氏が理事長を務める一般社団法人。
一級探偵調査士と探偵業務管理者という2つの資格の検定試験を実施しています。
この資格は届出という公の制度と対抗するものではなく、公の制度を前提に「より高い技術と能力」を認定するものであるーーー
公式ページで検定の位置づけについて、わざわざそのように説明しています。
一級探偵調査士検定
聞き込み・尾行・張り込み・撮影などの技術及び能力とも一定のレベル以上であると認められ、同時に関係法令に対する正しい知識も有していると当協会が認定又は検定試験に合格したもの
現場の探偵を対象にした試験です。
試験日: 年1回1月の第四日曜日
試験内容: 筆記試験(法令) 実技試験(尾行、張り込み、撮影機器取扱い等)
「探偵調査士」の称号はこの協会が独占使用権を持っています。
探偵業務管理者検定
関連する各種の法令諸規則等に関する正しい知識と深い理解を有することが必要で、加盟員の内部管理体制強化・教育指導や適切な営業活動を行うのための、主に事業者及び管理職向のもので、当協会が認定又は検定試験に合格したもの
経営者、管理者向けの試験で届出済業者が対象です。
試験日: 年1回1月の第四日曜日
試験内容: 筆記試験(法令) 面接試験(法令に関する質問)
日本調査業協会
内閣総理大臣認可、警察庁を所管官庁とする一般社団法人です。
下記2種のの認定試験を実施しています。
平成28年に第一回が実施され、毎回数名~10名程度の合格者を出しているようです。
2006年成立の探偵業法の検討過程では、届出制と免許制のどちらがいいのかも、もちろん議論されたそうです。
経緯は、葉梨康弘著「探偵業法」に出ています。
葉梨氏はこの法律を議員立法で成立に導いた衆議院議員で、後に法務大臣にまでなった人物です。
この貴重な本はすでに廃刊で中古本は高騰していますが、本サイトに要約を収録しています。
興味のある方は読んでください。
免許制にするための障害
免許制にしようとすると3つの問題がありました。
第一に、今後は何の仕事でも免許制はなるべく避けることが前提になっているそうです。
その理由は、免許を管轄する団体が官僚の天下りの温床になるからです。
第二に、探偵業務に詳しい者が役所の中にいなかったからです。
第三に、免許制にすることで「お墨付き」を与える形になると、世間の抵抗が予想されることです。
背景に探偵の職業イメージ
第二の問題点には、探偵経験者を採用するとか、探偵社を監修者に迎えるという対策もあるはずです。
しかし、そういう方法は採用されなかった。
これと第三の問題点の背景にあるのは、やはり世間の探偵のイメージでしょう。
探偵経験者を公務員として募集するとか、探偵社を監修者として役所が雇うというのは、確かに非難を浴びそうです。
「お墨付き」については、次のような意見の多発が予想されます。
「浮気調査がないと浮気された者が救済されないので、探偵は世の中に必要かもしれない。」
「しかし、だからといって『免許保持者はやっていいよ』と公に認めてしまっていいのか?」
公的な免許試験を想像できるか?
ここからは本サイト著者の意見です。
仮に探偵の免許試験があったらどんなものになるか、想像してみましょう。
少なくとも以上の例のようなことを問わないと、実践的な免許にならないでしょう。
こんな試験を地方自治体や商工会議所の名のもとに実施できるか?
ちょっと無理だと思います。
職務上の特権を与えることにも問題
免許というと、保持者には許されて非保持者には許されない特権が伴います。
運転免許保持者は自動車を運転できて、無免許運転は違法。
フグの調理は免許保持者にのみ許される、といった具合です。
探偵免許というものを作って、免許保持者に特権を与えていいのか?
ある種の捜査権とか、警察情報や戸籍情報へのアクセス権とかを与えるべきなのか?
これも世間の大きな批判を呼ぶでしょう。
現行の制度では、届出をしても何の特権も与えられず、一般人と完全に同じです。
探偵業法第六条(探偵業務の実施の原則)には、わざわざそのことが明記されています。
「この法律により他の法令において禁止又は制限されている行為を行うことができることとなるものではないことに留意する・・・」
こんな但し書きに法律の1条が割かれるのは異例とのこと。
「お墨付きが出た!」と誤解する探偵への警戒心が滲み出ています。
探偵になりたい人におすすめの記事
比較のために米国の探偵業ライセンスについても簡単にまとめました。
職務上の特権があり、詳細は州によって異なるようですが、概ね次のようなことです。
一方で免許を取得するための条件も厳しく、取得までに5年といった時間がかかるようです。
日本のように開業前日までに届出すればOKというような簡単なものではありません。
アメリカの探偵業は他国のそれとは大きく異なる成立過程を辿っています。
欧米諸国、アメリカと同じ大英帝国連邦内でもカナダやオーストラリア、それに日本もですが、最初から中央集権的な警察が存在しました。
しかし、19世紀以前のアメリカでは警察は州単位であり、州横断的な警察機構は不在でした。
背景には州の独立を重んじ、増税を嫌う気風があります。
しかし、大陸横断鉄道の開通やゴールドラッシュなどによって、州をまたぐ人と物の流れが活発化。
隣の州まで逃げれば逮捕されない従来の警察では問題が出てきました。
そこで州横断的な鉄道警察業務が米国の初期の探偵社の大きなビジネスチャンスになりました。
有名なピンカートン探偵社は、有名な列車強盗の逮捕にも関与しました。
彼らによる全国犯罪者のデータベース化は画期的な発明であり、20世紀のFBIに受け継がれます。
米国の探偵業は、その端緒から警察に近い色彩を帯びていたのです。
興味のある方は下記の記事を読んでください。