M資金詐欺を知ってますか?|GHQの隠し資産伝説に騙された昭和・平成・令和の企業家

M資金詐欺|GHQの隠し資産伝説に騙された企業家たち

莫大なM資金のイメージ

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企業における不祥事や詐欺をはじめとする諸問題と、探偵を活用した解決方法を考察していくコーナーです。


今回は「M資金」を取り上げます。


皆さん、聞いたことがありますか?


昔からある闇資金の儲け話で、立派な経営者が引っかかっては身を滅ぼしてきたのです。


(この記事を書いた人:探偵業界ライター 玄徳【徳野 制】


詐欺調査には大手探偵を

M資金詐欺を知ってますか?

「M資金」とは?

日本は第二次世界大戦で敗戦した後、米国を筆頭とする連合軍に占領され、GHQ(連合軍最高司令官総司令部)の支配を受けていました。


数年かけて帝国主義的体制を解体し、民主化するためです。


軍需物資を押収し、財閥を解体する中で、接収した財産は巨額なものになりました。


・・・と、ここまでは事実です。


参考サイト: GHQについて(Wikipedia)


ここから怪しいが、ロマンを掻き立てる話です。


GHQは接収した財産をもとに秘密資金を作り、実はそれが今なお運用されている。


あなたは非常に優れた経営者なので、その資金の提供を受ける資格があります・・・


こういうまことしやかなお話が「M資金」です。


参考サイト: M資金について(Wikipedia)


「M」の由来
M資金の「M」の由来には諸説あります。


ウィリアム・マーカット
まず、GHQ経済科学局の第2代局長であったウィリアム・マーカット少将の頭文字だいう説。


ウィリアム・マーカットト少将

【ウィリアム・マーカット少将】


参考サイト: ウィリアム・マーカットについて


上記サイトにも次のような記述があります。

「マーカットが経済科学局長時代に接収した日本軍の軍需物資や宝石類などを隠匿し、日本の戦後復興や反共工作のために運用した」という俗説が存在し、M資金と関連付けて言及されることが多い。


ダグラス・マッカーサー
いやいや、GHQトップの米国マッカーサー元帥の頭文字だという説もあります。


サングラスとコーンパイプがトレードマークの長身の軍人さんです。


敗戦直後に昭和天皇と面会し、天皇制の存続を判断した人物でもあります。


GHQトップのマッカーサー元帥

【GHQトップのマッカーサー元帥】


参考サイト: ダグラス・マッカーサーについて


戦後から今も続く詐欺被害
この巨額の闇資金の恩恵にあずかって一山当てたい経営者、資産家から金をだまし取る詐欺が、昭和、平成を経て令和の今もなお続いています。


参考サイト: M資金詐欺に関する最新(令和)の判決


M資金の存在が証明されたことはこれまで一度もありません。


しかし、絶対ないか、絶対嘘かと問われると、それも証明できない。


何かが存在することを証明するには、実例を一つ示せば足ります。


しかし、何かが存在しないことを証明するのは、とても難しいのです。


だからある日、M資金の儲け話を引っさげた謎のブローカーが現れると、社会経験豊かな人でも騙されてしまいます。


似た話としてヒトラーの隠し財産、バチカンの闇資金、徳川埋蔵金などがありますが、こういうものに魅せられる人は多いのです。


参考サイト: ヒトラーの隠し財産
参考サイト: バチカン闇資金
参考サイト: バチカンの宗教事業協会(Wikipedia)
参考サイト: 徳川埋蔵金


M資金詐欺、その被害の歴史

M資金詐欺の歴史はどこまで遡るのでしょうか?


おそらく、高度成長期には被害が出ていたか、と。


しかし、最初の大きな事件が起きるのは、終戦から四半世紀を過ぎた頃です。


やはり、終戦もGHQも遠い昔のことになり、調べようもなくなった頃に本格成立するものなのかもしれません。


全日空の被害
昭和の大きな事件としては1970年(昭和45年)の全日空の件があります。


同社の社長が3,000億円の融資を受ける念書を作っていたことが発覚し、辞任に追い込まれました。


しかし、これは一般的な主婦などは興味を持たない経済事件でした。


昭和の名優・田宮二郎の自殺
昭和の末にお茶の間をも騒がせる事件が起きます。


資産家狙いの儲け話に縁のない市井の人々が初めてこの謎めいた資金の存在を耳にしました。


1978年(昭和53年)、田宮二郎という俳優が自殺しました。


田宮氏は70年代に活躍したイケメン俳優で、映画「白い巨塔」で主演を務めました。


今の世代にとって「白い巨頭」といえば唐沢寿明ですが、初代は昭和の田宮二郎です。


「白い巨塔」の田宮二郎(左)

【「白い巨塔」の田宮二郎(左)】


参考サイト: 田宮二郎(Wikipedia)


田宮氏はM資金から巨額の出資があると信じて不動産などを購入しました。


しかし、実際に資金は投入されず、絶望して自殺したと言われています。


自殺の方法は、ベッドの上で自分の顔に散弾銃を発射するという凄惨なものでした。


田宮氏の自殺は、現代より素朴だった当時の社会に大きな衝撃を与えました。


平成も続くM資金詐欺の被害
その後も自動車メーカー、航空会社、大手鉄鋼企業などの社長や役員が次々とM資金詐欺にかかったと言われています。


1981年に中小企業の経営者から3,000万円をだまし取ったとして逮捕された男がM資金詐欺グループの関係者とされました。


こんな眉唾な話、平成の時代には立ち消えになるのではと思っていましたが、事件の発生は続きました。


1982年から2001年(平成13年)にかけて7つのM資金詐欺が摘発され、被害総額は46億円にも。


令和の時代に再び31億の被害
令和2年(2020年)6月11日、神奈川県警は本部の記者レクで、新たなM資金詐欺被害を発表。


50代から70代の男3人の犯人グループがM資金2800億円を投入する儲け話で70代の会社役員から1億3,000万円を詐取。


ほかにも30億円あまりをだまし取られた可能性があるという内容でした。


合計32億円に及ぶM資金詐欺被害が令和の時代にも再び発生したのです。


被害者はコロワイドの蔵人会長
この被害者はコロワイドの蔵人金男会長であることが、その後判明しました。


コロワイドといえば、かっぱ寿司や牛角などを保有する外食大手です。


蔵人会長は高校卒業後、父親が経営していた「甘太郎食堂」を継ぎ、「手作り居酒屋 甘太郎」に業態転換しました。


その後、積極的な買収を通じて実質一代で企業帝国を作り上げたヤリ手です。


参考サイト: 株式会社コロワイド・ホームページ
参考サイト: コロワイド(Wikipedia)


2,800億円の資金提供という嘘
蔵人会長が聞かされたのはこんな話です。


基幹産業育成資金というものがあって、これは敗戦時GHQが日本から接収した財源が基幹産業への投資として運用されてきた。


世界銀行、日本政府、経済協力開発機構、三井住友銀行、みずほ銀行などとも連携して運用。


投資先は初期は基幹産業だったが、現在は対象が拡大されており、近年の投資先リストは日本の一流企業を広くカバーしている。


そしてコロワイドにはその一員となる資格がある。


必要な手続きを取り、必要経費の31億円を振り込めば、2,800億円もの資金提供を受けられる…


慎重な人が騙されるプロセス
会長は以前にもこの種の話を何度も持ちかけられていましたが、「誇大妄想」と却下していました。


それが今回は大学教授の知人の紹介ということで、引き合わされた男を信じてしまいました。


007で有名な英国諜報機関MI6のスナイパー出身で、現在はFRB(米国連邦準備制度理事会)の職員というその男。


上記の話をし、資金提供を進める賄賂が必要だというので、現金を振り込みました。


しかし、ここでいったん相手が連絡を絶ちます。


普通はここで気づくでしょう。


しかし、数年後に再び消えた男の上司を名乗る男が現れ、会長は話に応じてしまいます。


すでにあまりに多くのお金をつぎ込んでおり、自分が騙されたと認めることはもはやできなかったのでしょう。


場所は皇居を望む歴史あるビルの一室で、お金の名目は手数料や現金を保管する倉庫代でした。


このビルのオーナーという話を会長は信じましたが、実際はレンタルルームでした。


M資金は実在する!
この事件の裁判で、弁護側はなんと「M資金は実在する!」と主張しました。


裁判官は「荒唐無稽」と一蹴したそうですが、驚くべき主張です。


被告は武藤薫という68歳(判決時)の老人で、詐欺罪で懲役8年の判決を受けました。


参考サイト: この件に関するダイヤモンド・オンラインの記事


M資金信者とは?

ところで、蔵人会長が詐欺師を信用するきっかけになった大学教授がちょっと気になりませんか?


社会的信用のある職業なのに、どこで詐欺師と知り合い、なぜ紹介したのでしょうか?


確認までできていないのですが、この教授は「M資金信者」の一種ではないかと推察します。


「M資金信者」は詐欺師たちが使う蔑称で、本気で資金の存在を信じている人たちです。


まったく悪気なく無邪気に信じ、詐欺師たちを信奉し、手先になって動く人たちがいるそうです。


詐欺の分け前を欲しがるわけでもなく、ボランティアで動きます。


大手企業幹部、元警察幹部、元自衛隊幹部、元官僚、議員秘書など、高齢者で社会的信用を持つ面々です。


彼らにとってM資金に関わることは、選ばれた人間だけが知る秘密に触れる、冒険活動なのです。


徳川埋蔵金やバルチック艦隊沈没船の財宝に夢中になる人と同じ人種です。


こういう人たちの存在が詐欺を容易にしているのでしょう。


「M資金信者」の話は下記の本に詳しいです。


「M資金 欲望の地下資産」 藤原 良 著



ある中堅企業創業者の告白

コロワイドの被害が発表された2020年、大阪のアルミ加工企業の会長が逝去されました。


竹内正明という方で、自叙伝「失敗をおそれず」の中でM資金の被害に遭ったことを告白されてます。


騙された原因については、次のように。

  • 明らかに調査不足とそれに伴う判断ミス
  • 当時の私には多分に山っ気があり、慎重さを欠いていた

M資金詐欺被害は、騙されたのが恥ずかしくて、被害届を出さない社長もいるそうです。


だから表沙汰になっている被害は氷山の一角なのだとか。(警察関係者談)


竹内氏はとても勇気のある方だと思います。


幸い、(株)アルミネは現在売上137億円、従業員200名の中堅企業として健在です。


成功者の承認欲求につけこむ手口


「自分は特別な存在」が落とし穴
なぜ、たたき上げの大経営者がこんな荒唐無稽な嘘に騙されてしまうのか?


上記の記事の記者によると、背景には「自分は特別な幸運に恵まれる存在」という信念があります。


逆に言うと、そういう信念の持ち主を攻めることこそ、M資金詐欺を成功させるコツ。


それは、ターゲットを超大手企業の代表取締役に限定することだという話も紹介しています。


サラリーマン経営者かオーナー経営者かは無関係。


そういう人たちは、成功の過程で「自分は特別に選ばれた存在で、それにふさわしい偉大な役割と権利がある」など強く信じる傾向があるそうです。


その自尊心をうまくくすぐることで、普通の人なら絶対信じないような嘘を信じさせることができるようです。


東京商工リサーチの情報部の話では、都心部の大企業経営者には、毎月のようにM資金の資料が届くそうです。


コロナ禍は関係ない
ちなみにこの事件が発覚した時、マスコミ各社は「コロナ禍で社会不安が高まる中、巨額詐欺が再び台頭してきた」という説明をしました。


これについて、作家の藤原 良 氏は異議を唱えています。


「M資金 欲望の地下資産」の著者です。



藤原氏は、取引開始はコロナ発生以前の2017年であり、無関係だといいます。


当サイトもM資金詐欺の要因は経営者の承認欲求で、コロナと結びつけるのは皮相的だと考えます。


トップの独断専行が問題

周囲の者はこれを止めることができないのか?


会社組織のチェック機構が働けば、こんなものは簡単にブロックできるはずです。


しかし、権力者がチェック機能を遮断してしまえばどうしようもありません。


企業のトップを狙う詐欺師は、そうした層の欲望を刺激し、チェック機能を遮断させることに熟達しています。


「平凡な見識しかない平凡な人間の意見を聞けば、非凡な自分に訪れたチャンスを逃してしまう。」


「もし秘密を漏らしたり、疑ったりすれば、やはりチャンスを逃してしまうだろう。」


「やはり、これは特別な能力と運に恵まれた自分が一人で決めるべき問題だ!」


そう考えて周囲の人間をシャットアウトしてしまうのです。


トップたる者はこの種の詐欺事件も普段からよく勉強しておくべきです。


そしてもし自分が遭遇してしまった場合に盲目にならないよう自制すべきだと考えます。


近年は「Mではない資金」も

最近は「M資金」もすっかり知れ渡っているので、別の秘密資金と騙すケースが増えているそうです。

  • 天皇家の資金
  • 産業育成資金
  • フリーメイソンの資金
  • 「財政法第44条」に基づく、国の資金を提供するプロジェクト

詳しくは下記の東京商工リサーチのレポートにて。


ここには最初の接触の手口も出ています。


参考: TSR「M資金」詐欺レポート


謎のブローカーは必ず身元調査を!

トップが盲目になっていなくても、特殊な案件ではブローカーじみた人物を頼らざるを得ない場合もあるでしょう。


通常の方法では扉が開かず、「自分には可能である」と称する人物の力を借りる以外に方法がない。


そういう場合は、やはりその人物の身元調査をすべきです。


「そんなことをしてもなかなかわからないのではないか」と思われるかもしれません。


確かに調査してもわからない場合もあるでしょう。


しかし、調べればすぐにわかる場合もあるのです。


積水ハウス地面師詐欺事件の記事を読んでみてください。


聞き込みをやっていれば簡単に防げたのに、それを怠ったために55億5千万円もの被害を出しました。


発覚せずに聞き込みできる探偵を
調べていることが相手にわかれば、破談になるかもしれないという恐れがためらわせていることもあります。


また、競合に伝われば、競合もチャンスがあることを知って、活動を活発化させるかもしれません。


だから、調査する場合はバレずに聞き込みできる探偵を使わねばなりません。


少し具体的に言うと、自然な接触を装い、雑談を通じて組織的に情報を集めるやり方です。


これができる探偵がいる探偵社は限られています。



 


必要な場合は探偵の活用も視野に入れる。


いざという時のために実力のある探偵とコネクションを作っておく。


企業のトップにはそういうことも考えてほしいと思います。

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