大手有名探偵社への訪問取材を繰り返す中で教えてもらった調査技術のエッセンスを紹介するコーナーです。
今回は最も基本的な調査である行動調査(尾行&撮影記録)の尾行に関する話です。
浮気調査も素行調査も調査目的が違うだけで、行動調査の一種です。
尾行は探偵技術の中核であり、非常に奥が深いものだとのこと。(原一探偵事務所 探偵A氏 談)
このページではその技術のほんのさわりを紹介します。
探偵の尾行は長時間に及びます。
浮気調査の場合は、ラブホテル出入りの写真を撮ることが目的ですから、ターゲットがそういう行動を取るまで追い続けねばなりません。
少なくとも数時間、長い時は何日にも渡って尾行を続けねばならないのです。
素行調査の場合は、8時間といった契約時間の間、全行動を映像で記録するので、これもまた長時間の尾行です。
素人がこんなに長時間、失尾(見失う)も発覚(バレる)もせずに尾行を続けるのは不可能です。
「人の後をつけるぐらい簡単では?」と考える人もいるようですが、とんでもないことです。
尾行とは、結局は次のジレンマとの戦いです。
両者の間でバランスを取りながら、目的を達するまで維持していくことなのですが、一人では限界があります。
そもそもそんなに長時間、トイレに行かないということが不可能です。
この問題に対するプロの解答は、チームで尾行するということです。
一番基本的な動きは下記のものです。
この動きは徒歩尾行でも車両尾行でも共通して使われます。
上記の動きを具体的に図で説明してみましょう。
MOVE1: ターゲットを近距離で追う役割を定期的に交代することで発覚の確率を下げる
ターゲット(T)を探偵Aが近くで追っており、探偵Bはその後ろで二人を見ながらついてきている。
探偵Aは交差点で曲がっていったん尾行から離脱し、探偵BがターゲットTとの距離を詰める。
探偵Aは近くで追う役割を探偵Bと交代し、TとBの後ろから尾行に復帰した。
単にT近くのポジションを交代するだけでなく、帽子や眼鏡を着脱したり、服を着替えることにより、別人に見せかければ、発覚の確率をさらに下げられる。
ターゲットの車Tを調査車両Aが近くで追っている。
真後ろにつけるとルームミラーでナンバープレートや車内の様子を見られて発覚につながりやすい。
そこで、たまたまそこを走っていた無関係の一般車両を間に挟むということがよく行われる。
2台、3台とたくさん間に挟むほど発覚のリスクは減るが、失尾のリスクが上昇する。
実際は1台挟むだけでも、熟練していないと失敗しやすい。
(一般車両を間に挟むテクニックを否定する探偵社もあるが、私は1回目の原一探偵事務所の公開尾行訓練に参加した時に実際にやるのを見せてもらい、強い感銘を受けた。その時の体験記はコチラ。)
T車は左折ウインカーを出したので、A車はB車に無線でそれを伝え、役割交代を指示した。
A車は交差点を直進して、いったん尾行から離脱する。
B車が左折してT車を近くで追う役割を引き継ぐ。
適当なところでまた別の一般車両を見つけて間に挟む。
A車は適当な道を辿って、B車の後ろから尾行に復帰する。
MOVE2: 一人が尾行を続ける間に、別の者が別の道を通って先回りする
ターゲットTを探偵Aが近距離で尾行し、探偵Bはその後ろを歩いているが、先回りをするよう指示を受けた。
探偵Bは別の道を早足で回ってTの前方に現れ、素知らぬ顔で隠しカメラを使ってTの正面写真を撮ることに成功した。
浮気調査の場合、人物の顔が鮮明に撮れていないと証拠価値がないので、正面写真は大切。
安い探偵社、下手な探偵社に頼むと後ろ姿ばかりの報告書を渡されることになる。
チーム尾行なら正面写真を撮るのはそれほど難しくないことがわかる。
ターゲット車Tを調査車両Aが追尾している間に、調査車両Bは先回りして十字路を折れたところで待機している。
この図では路上に駐車して待機しているが、交差点通過時にTに見られて不審に思われるリスクがなくはない。
ファミレスの駐車場などから出てきたら一層自然で疑われる心配がないので、そういうものがある時は利用する。
A車からT車が交差点を通過するタイミングを無線で聞いてB車は車を出し、T車を目視の上、追尾開始する。
こうしてB車はA車と役割交代した。
ここまで説明したことは、チーム尾行のごくごく初歩にすぎません。
このページで紹介しきれませんが、もっといろいろなテクニックがあるのです。
一つだけ紹介しておきましょう。
探偵はターゲットの後ろを歩いているとは限らない。
この図では、探偵Aは車道を挟んで向こう側の歩道を歩いている。
これは気づかれにくいので、よく行われる。
さらに驚いたことに探偵Bは一本隣の通りを歩いて、ターゲットTが交差点を渡るたびに望遠ビデオカメラで撮影している。
Tを目視しているAから無線で状況報告されるので、Tが見えない時間が長くてもBはTを見失わない。
尾行者がビルを隔てた隣の通りを歩いているなど、一般人の想像力の圏外である。
こうして知識として教えられても、現場で探偵を識別するのは不可能である。
ここまで尾行のテクニックを説明してきました。
探偵のテクニック・スキルが最重要なのは間違いないですが、装備もまた重要です。
それは強い兵士であっても武器・弾薬が劣れば勝てないのと同じです。
尾行の武器といえば、まず車やバイクでしょう。
怪しまれたら、すぐ替えを投入できる余裕が欲しいところです。
都内は維持費が高額なため、車が1台しかないような零細探偵社が多いですが、そういうところに車両尾行の比率が高い調査を任せるのは、とてもリスキーです。
【100台以上の調査車両を保有する原一】
また、チーム尾行には信頼性の高い通信システムが必須です。
一瞬でも通信が途切れたら、連携が取れなくなって、失尾や発覚が起きます。
スマホもかなり進歩してきていますが、業界大手の原一さんでは警察と同水準の無線を使用しています。
探偵1人に1台と調査車両1台に1台ずつ配備しているそうです。
【デジタル業務無線】
尾行と張り込みはセットで必要になる技術です。
例えば、尾行のスタートは必ず対象者が現れるのを待つ張り込みで始まります。
尾行中に探偵がついていけない場所に入られた場合は、出てくるのを張り込んで待つことになります。
浮気調査の最終にして最重要のプロセスであるラブホ出待ちも張り込みです。
張り込みはただ待っていればいいという簡単なものではありません。
対象者に見つかってはいけないだけでなく、近隣住民にも怪しまれてはいけないのです。
探偵への取材に基づくレアな技術情報を公開しているので、ぜひ読んでみてください。
尾行の基礎がわかったら、次はぜひ実戦を体験してほしいです。
探偵の尾行など実際に見る機会はなかなかないですが、このサイトの管理者の私が体験してきたことの報告を読めば、近い体験ができます。
業界大手有名社の原一探偵事務所は、メディアに新人探偵の尾行訓練を兼ねた尾行体験プログラムを提供しています。
私もこれまでに2回、それぞれ違う内容で参加しました。
実によくできたプログラムで、追う側も追われる側も体験でき、その中での探偵の動きがわかるようになっています。
エキサイティングで興味深い内容なので、ぜひ読んでみてください。
車両尾行メインで、まず追われる側を体験し、ショッピングモール内での徒歩尾行を挟んで、車で追う側を体験するようになっています。
徒歩、および電車で移動しながら追われる内容です。
興味深いのは、新幹線移動への対処が含まれている点です。