探偵業法が必要になった背景や法案成立までの過程
条文1条ずつとその意味、議論された事やその形になった理由
本の前半は立法の経緯を説明しています。
平成の前半、探偵の業者数はハイペースで増加し、消費者トラブルも急増していました。
ひとつは探偵と依頼者のトラブル。
法外な料金、やらずぼったくりから、悪質なものは盗聴や恐喝まで。
もうひとつは探偵と調査対象者のトラブル。
秘密を知られることによる不利益や生活の平穏を乱されることまで。
当時、探偵業に対しては何らの法規制もなく、いわゆる「野放し」状態でした。
この事態を何とかすべきだという声が国会議員から上がり、議員立法の機運が高まってきました。
そこで警察庁出身の葉梨氏に声がかかり、ワーキングチームの事務局長に就任され、3年がかりで探偵業法を確立されました。
探偵業法は、ほとんど役所の手を借りずに、議員らだけで法案を書き上げた、非常にまれな例だそうです。
この動きが起きる以前、警察内では規制確立への関与には消極的なムードでした。
「全国調査業協同組合」のような探偵の業界団体はあったが、組織率があまりに低く、また根拠にできる法律もないために、業界を指導する力はありませんでした。
国会も取り組みに消極的で、先延ばしにする議論ばかり行われていました。
警察、業界団体、国会の3すくみの中で、一部の国会議員が行動を起こしました。
平成16年、内閣部会に「調査業に関するワーキングチーム」が立ち上げられ、葉梨氏は事務局長として法律の中身や実務を担当することになります。
まずは海外の法規制の事例を調べたり、国民生活センターや関係団体へヒアリングを行うことから着手しました。
苦情の実態を知って、葉梨氏自身も規制の必要性を感じたとのこと。
そして新しい法律は、探偵のためのものではなく、「消費者保護」「人権保護」に力点を置いたものにせねばならないと思ったそうです。
こうして、平成16年の秋に、警察庁に正式に立法化の検討を要請しました。
しかし、警察庁の作業は遅々として進まず、次回の国会での提案は無理との回答が返ってきました。
そこで、葉梨氏が中心になって議員立法で進めていくことになりました
警察庁も要請を受けて準備を進めていましたが、まず「調査業」の定義が広すぎることが問題でした。
単なるアンケート回収やジャーナリズムまで含まれかねないような内容で、それでは言論規制が立法の本当の目的ではないかといった疑念を引き起こしてしまいます。
そこで、トラブルが起きている中心分野に絞り込んで「探偵業務」を新たに定義しました。
海外に見られるような免許制ではなく、届出制にしようという柱も明確になってきました。
第一の理由は、免許制にするということはこの業を公認するということでもあるが、それに対する世間の抵抗が大きいだろうこと。
第二に、免許制にするには行政が探偵業の実態を熟知する必要があるが、情報がないこと。
第三に、この問題に限らず、なるべく免許制を避けて届出制にしようという風潮になってきていたこと。
これは免許の関連団体が天下りの温床になりやすいためです。
そして暴力団などを排除するために、最低限の「欠格事由」を設定する方向性も出てきました。
法案の名前もわかりやすくするようにしました。
当初は「調査業の業務の適正化及び契約者の保護等に関する法律(仮称)」という長たらしくてわかりにくい名称だったのを、「探偵業の業務の適正化に関する法律」としました。
こうして法案はよいものが準備できたのですが、民主党が郵政改革に反対して審議入りを拒否したため、議論さえされずにいったん廃案にされます。
議員立法の審議は常に後回しにされるため、政局の大きな動きがあると、こういうことが起きるのです。
平成17年、郵政解散の結果は与党の圧勝という結果になり、改革断行への国民の支持が鮮明になりました
同年秋の国会ではようやく探偵業法を積極的に審議していこうという空気が生まれ、翌春からは民主党も本腰を入れ始めました。
こうして平成18年5月19日の衆議院内閣委員会において、全会一致で法案が可決されました。
「探偵業法」の本の後半は、条文ひとつひとつについて、どんな事情を踏まえてどんな意図でそういう風にしたかを解説しています。
各条について行われた衆議院委員会の質疑なども収録されていて、制定内容の背景がよくわかります。
(目的)
第一条 この法律は、探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的とする。
法律の目的が規制をかけて探偵業界を健全化することであることを最初にハッキリ述べています。
これは前段の立法の経緯を読んでいただければ、当然のことと理解できるはずです。
衆議院内閣委員会の質疑で「業界振興のための法律なのか、消費者保護または人権保護の観点からの法律なのか?」という質問に対して、後者であると回答がなされています。
ここで付帯決議も紹介されているのですが、同法の適用除外対象が明記されています。
ジャーナリスト、作家、メディア、ネットメディア、出版社、芸術活動、学術関連、税理士、弁護士などが探偵的な調査を行っても適用対象にはならないと書かれています。
探偵業法制定に当たっては「実は探偵は口実で、言論の自由を弾圧するのが本当の目的ではないのか?」という疑念が非常に強かったのです。
与党政治家に都合の悪いジャーナリストの調査などが規制されてしまうのではないか?
付帯決議はそうした疑念を払拭するのが大変だったことを物語っています。
第二条第一項
この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞き込み、尾行、張り込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。
第一節 探偵業務(第二条第一項)
既に述べたように「探偵業務」の定義、つまりどのまでの範囲が含まれるのかは、立法上の最初の大きな争点でした。
信用調査、ジャーナリストの調査、学術調査、創作のための調査が含まれないように定義を定める必要がありました。
上記の条文の定義には5つの要素が含まれています。
例えばパパラッチが有名人の浮気の写真を撮って出版社に売り込む行為は1に該当しないので、探偵業務ではありません。
個人・法人の資産状況の調査は2に該当しないので、探偵業務ではありません。
・・・という具合に、5つ全部に当てはまるものだけを探偵業務と呼ぶことにしたわけです。
第二節 探偵業(第二条第二項関係)
この法律において「探偵業」とは、探偵業務を行う営業をいう。ただし、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見または見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く。
たとえ前出の探偵業務に該当しても、専ら報道機関の依頼を受けて探偵業務を行う営業者は対象外ということが念押しされています。
衆院内閣委員会でも「報道関係者は探偵業法の適用対象なのか?」についての質疑があり、その内容が収録されています。
書籍・雑誌などの出版社や携帯を含むウェブメディアについても質問があり、「含まれない」との回答がなされています。
第三節 探偵業者(第二条第三項関係)
第二条第三項
この法律において、「探偵業者」とは、第四条第一項の規定による届出をして探偵業を営む者をいう。
業法の適用対象としては届出などの許認可を受けた者だけに限定する方式と、許認可の有無にかかわらず業を営む者すべてとする方式があります。
前者の例は警備業法、旅行業法、貸金業規制法などで、後者の例は食品衛生法、風営適正化法などです。
探偵業法は前者に属し、無届で探偵業を営む者に対しては探偵業法第十八条により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科すものとしています。
また、欠格事由に該当する時は、届出の有無にかかわらず、探偵業法第十五条第二項の廃業命令の対象になります。
(欠格事由)
第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、探偵業を営んではならない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ない者
二 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して五年を経過しない者
三 最近五年間に第十五条の規定による処分に違反した者
四 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者。
五 営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号のいずれかに該当する者。
六 法人でその役員のうちに第一号から第四号までのいずれかに該当する者があるもの。
第一節 欠格事由の規定を設けた趣旨
探偵業法の制定目的が悪質業者の排除なので、欠格事由の設定はこの法律の根幹をなすと著者は述べています。
欠格事由の内容については、お役所の調査や審査など裁量の余地を入れず、白黒はっきりするものを選んだそうです。
衆院内閣委員会では、暴力団員のみならず準構成員も欠格事由に含めるべきではないかという質問が出ました。
これについては、法に基づく準構成員のリストがない以上、現時点では無理との回答がなされました。
第二節 各号の欠格事由の解説
(二)探偵業法は他の法律とのバランスを取ってあまり重い罰則を科していませんが、罰金刑の範囲を広く取っています。
そして上記の第二号は罰金刑が科された途端に欠格事由になる仕組みにしています。
(三)第十五条は営業停止および営業廃止命令に関するものです。
これだけで十分という考え方もありえますが、刑の確定には時間がかかります。
営業停止または営業廃止の命令が出ているにも関わらず、刑確定までの間に強引に営業を継続した場合は、欠格事由になる仕組みになっています。
第三節 欠格事由に該当する者が届出をしてきた場合の手続き
いったん受理した後に欠格事由を判定し、第十五条第二項に基づく営業廃止命令をかけることになるだろうと述べています。
一見煩雑だが事前審査の仕組みを排除している以上、仕方ない、と。
しかし、2006年出版の本なので、今は変わっているかもしれません。
第一節 営業の届出
第四条第一項 探偵業を営もうとする者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
一 商号、名称又は氏名及び住所
二 営業所の名称及び所在地並びに当該営業所が主たる営業所である場合にあっては、その旨
三 第一号に掲げる商号、名称若しくは氏名又は前号に掲げる名称のほか、当該営業所において広告又は宣伝をする場合に使用する名称があるときは、当該名称
四 法人にあっては、その役員の氏名及び住所
探偵業の届出は本社だけでなく、営業所ごとにそれぞれの地元県の公安委員会に提出が義務付けられています。
営業所というのは支社、支店、営業所、相談室など呼称に関係なく、全部含みます。
東京本社で名古屋と大阪に支店があれば、東京都、愛知県、大阪府の公安委員会に届出が必要です。
このようにしたのは、本社のある都道府県に支店リストを一括提出しただけでは、支店の実態把握が難しいと予想されたからです。
探偵業界では支店・相談所のリストを多数列挙して実際以上に大きな組織に見せることがよく行われていました。
だからその実態に迫って管理できるように、営業所ごとに地元で届出をする仕組みにしたそうです。
第三号で「当該営業所において広告又は宣伝をする場合に使用する名称があるときは、当該名称」も届出させるのは、営業所の別称を使って支店を多く見せる裏技を封じるためです。
第二節 廃止又は変更の届出(第四条第二項関係)
第四条第二項 前項の規定による届出をした者は、当該探偵業を廃止した時、又は同項各号に掲げる事項に変更があった時は、内閣府令で定めるところにより、公安委員会に、その旨を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
会社は存続するが、ある営業所を閉鎖する場合は、その営業所のある都道府県公安委員会に廃止の届出をするという取り決め。
なお、法人で役員に異動が生じた場合は、全営業所でそれぞれの都道府県公安委員会に届出が必要です。
第三節 届出証明書の交付(第四条第三項関係)
第四条第三項 公安委員会は、第一項又は前項の規定による届出(前項の規定による届出にあっては、廃止に係るものを除く。)があった時は、内閣府令で定めるところにより、当該届出をした者に対し、届出があったことを証する書面を交付しなければならない。
届出をすると届出証明書を出してくれて、それを事務所の見やすい場所に掲示しておく。
すると依頼者は「ここは届出をちゃんとしているな」とすぐわかる仕組みになっているわけです。
第四節 名義貸しの禁止(第五条関係)
(名義貸しの禁止)
第五条 前条第一項の規定による探偵業の届出をした者は、自己の名義をもって、他人に探偵業を営ませてはならない。
業法において名義貸しの禁止まで条文内で規定されることは稀だそうで、警備業法にもないそうです。
しかし、探偵業法は悪徳業者の排除が立法の目的なので、特にこの条項を盛り込んだとのことです。
名義貸しをすると貸した方も借りた無届業者も、ともに第十八条により六月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます。
(探偵業務の実施の原則)
第六条 探偵業者及び探偵業者の業務に従事する者(以下「探偵業者等」という)は探偵業務を行うに当たっては、この法律により他の法令において禁止または制限されている行為を行うことができることとなるものではないことに留意するとともに、人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない。
この条項が設けられた趣旨は、探偵業法が制定されたことにより、探偵業者等が、何かお墨付きを与えられ、従来法令違反とされていた行為を行うことができるかのように誤解されることを厳に避けるためだそうです。
内容をちゃんと知らずに「探偵業法」というものに幻想を抱く人間には衝撃的な内容ともいえます。
探偵の届出をしたら捜査権のような特権をもらえるわけではなく、探偵の法的な権限は一般人と何も変わらないということですから。
上記は探偵でも一般人でも同じなのです。
換言すると、探偵は一般人と完全に同じ制約の中で、違法行為をしてしまわないように注意しながら調査しなければいけないということです。
条文の最期の「人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないように」というくだり。
これは「明確に違法行為とまでいえなくても人に迷惑をかけるようなことはするなよ」という意味です。
例えば尾行と称して調査対象の前に立ちはだかるとか、張り込みと称して調査対象の近隣商店の前を占拠するとかはダメだという意味です。
今挙げた例は著者自身によるものです。
(書面の交付を受ける義務)
第七条 探偵業者は、依頼者と探偵業務を行う契約を締結しようとするときは、当該依頼者から、当該探偵業務に係る調査の結果を犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いない旨を示す書面の交付を受けねばならない。
これは依頼者側に問題があって調査対象に被害が及ぶのを防ぐ目的の条項です。
暴力団やストーカーの人探し、被差別部落出身かどうかの身元調査などに探偵がうっかり協力してしまわないようにする目的です。
「調査結果を違法行為や差別行為に利用しません」と依頼者に書面で誓約してもらわないと契約に進めないようになっています。
(重要事項の説明等)
第八条 探偵業者は、探偵業務を行う契約を締結しようとするときは、あらかじめ、当該依頼者に対し、次に掲げる事項について書面を交付して説明しなければならない。
一 探偵業者の商号、名称又は氏名及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 第四条第三項の書面に記載されている事項
三 探偵業務を行うに当たっては、個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)その他の法令を遵守するものであること。
四 第十条に規定する事項
五 提供することができる探偵業務の内容
六 探偵業務の委託に関する事項
七 探偵業務の対価その他の当該探偵業務の依頼者が支払わなければならない金額の概算額及び支払い時期
八 契約の解除に関する事項
九 探偵業務に関し作成し、又は取得した資料の処分に関する事項
2 探偵業者は、依頼者と探偵業務を行う契約を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項について当該契約の内容を明らかにする書面を当該依頼者に交付しなければならない。
一 探偵業者の商号、名称又は氏名及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 探偵業務を行う契約の締結を担当した者の氏名及び契約年月日
三 探偵業務に係る調査の内容、期間及び方法
四 探偵業務に係る調査の結果の報告の方法及び期限
五 探偵業務の委託の定めがある時は、その内容
六 探偵業務の対価その他の当該探偵業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額並びにその支払いの時期及び方法
七 契約の解除に関する定めがある時は、その内容
八 探偵業務に関して作成し、又は取得した資料の処分に関する定めがあるときは、その内容
重要事項説明は、割賦販売法や宅地建物取引業法などにみられる消費者保護の方法です。
高額な語学塾・エステなどの長期契約や不動産の購入では、不慣れな消費者が不利な契約をさせられる危険が大きいです。
だから煩雑な契約事項の中から法で指定された特に重要なものを抜き出して説明し、よく理解してもらった上でないと契約に進めないようになっています。
そして契約締結時には、その内容を文書で交付することが義務付けられています。
これが「重要事項説明」、いわゆる「重説」です。
探偵の調査も一生に一度、使うか使わないかの高額な買い物なので、探偵業法で重説が義務付けられました。
契約前に書面を交付して説明し、契約締結時にその書面を引き渡すことが義務付けられています。
なお、不動産の場合、重要事項説明は宅建士登録者でないとしてはなりませんが、探偵業の場合はそういう限定はありません。
上記前段の三号は、電話の盗聴とか、他人の住居に侵入しての調査といった違法行為は、頼まれてもできないことを、わかった上で契約してもらいましょうということです。
同四号は、秘密保持に関すること。廃業後まで含めて秘密を洩らさないとか、調査終了後の写真や文書などの処分方法に関する話です。
同五号は、調査の仕事範囲です。
調べていくうちに新しい事実が判明して追加の調査が必要になるのはよくある話で、その場合は新たな契約になります。
これは探偵の調査という仕事の本質から仕方のないことです。
だから「今回の契約ではどこまでの範囲が含まれているのか」を契約前にはっきりしておこうという趣旨です。
同六号は、外注や下請けを使うことがあるなら、そのルールということです。
依頼者の事前の了解を取らずに外注すると守秘義務違反になる可能性があるからです。
第一節 探偵業務の実施に関する規制(第九条関係)
(探偵業務の実施に関する規制)
第九条 探偵業者は、当該探偵業務に係る調査の結果が犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法行為のために用いられることを知ったときは、当該探偵業務を行ってはならない。
2 探偵業者は、探偵業務を、探偵業者以外の者に委託してはならない。
第七条では、依頼者は調査の目的が違法なものでないことを書面で提出しなければないと定められているのを見ました。
しかし、それだけであれば、調査の途中で探偵が「この調査、おかしいな。違法では?」と気づいても止められないことになります。
それどころか、最初に依頼者が嘘の誓約をしておけば、どんな違法な調査でもできることになってしまいます。
第九条はそれを止めるべく、探偵の側にも注意を要請するものです。
途中でおかしい、違法だなどと気づいた場合は、探偵は調査を中止せねばなりません。
同条の2は、探偵業法適用外の人間に委託されることで違法な調査の違法性が追及できなくなる事態を防止するものです。
第二節 秘密の保持等(第十条関係)
第十条 探偵業者の業務に従事する者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。探偵業者の業務に従事する者でなくなった後においても、同様とする。
2 探偵業者は、探偵業務に関して作成し、又は取得した文書、写真その他の資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。)について、その不正または不当な利用を防止するため必要な措置をとらねばならない。
探偵は、人が一番知られたくない秘密に属することを調べる仕事なので守秘義務があるのは当然ですが、現役の間だけなら意味がありません。
第十条は退職や廃業で探偵でなくなってからも、秘密を漏らしてはいけないと定めています。
ただし警察の捜査など「正当な理由」がある場合は例外です。
また、わざと漏らすつもりがなくても、写真や調査報告書などの管理がいいかげんだと、書類が流出して秘密が漏れかねません。
第二項はそういうこともちゃんとしなさいよという意味です。
調査報告書などは廃棄していくのが原則ですが、関係書類を何もかも廃棄すべしと一律に決めるのも無理があるので、こういう表現になりました。
(教育)
第十一条 探偵業者は、その使用人その他の従業者に対し、探偵業務を適正に実施させるため、必要な教育を行わなければならない。
この条項は、もともと役員だけでなく、従業員からも暴力団員を排除すべきという議論からでてきたものだそうです。
ただ、従業員にも欠格事由を設定して届出をさせるということが現実的に可能かどうかわからない。
そこで、まずは経営層から暴力団員を排除し、従業員の教育を義務付けるところから始めようということになったそうです。
第一節 名簿の備え付け等(第十二条関係)
(名簿の備え付け等)
第十二条 探偵業者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、使用人その他の従業者の名簿を備えて、必要な事項を記載しなければならない。
2 探偵業者は、第四条第三項の書面を営業所の見やすい場所に掲示しなければならない。
名簿の備え付けは風俗営業者や宅建業者にも同様の規則があります。
第二項は、依頼者が届出済み業者かどうか一目でわかるように、いわゆる「届出証明書」を事務所の見やすい場所に置けということです。
第二節 報告および立入検査(第十三条関係)
(報告及び立入検査)
第十三条 公安委員会は、この法律の施行に必要な限度において、探偵業者に対し、その業務の状況に関し報告若しくは資料の提出を求め、又は警察職員に探偵業者の営業所に立ち入り、業務の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により警察職員が立入検査をするときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
第二項と第三項の意味ですが、立ち入り検査をする時は警察手帳を見せること、そして犯罪捜査みたいな高圧的なふるまいをしないように、ということのようです。
立ち入り検査が簡単になり、探偵社のルール順守が徹底するように、帳簿もルールを定めた方がよいのではないかという考えも当初はあったようです。
しかし、探偵業務の内容上、依頼者と依頼内容がわかってしまうようなものを作るのは望ましくないということで見送られたようです。
これは何か違反があった時の行政の対応についての取り決めです。
厳しさの昇順に、指示、営業停止、廃業命令の3段階があります。
どういう場合にどれが適用されるか定められています。
条文は省略しました。
北海道に関する技術的規定の話なので省略します。
探偵業法に違反した場合の罰則について定めています。
代表的な場合をいくつか例示するにとどめ、条文などは省略します。
違反内容 | 法的根拠 | 罰則内容 |
---|---|---|
無届営業 | 第4条第1項違反により、第18条第1号の罰則を適用 | 6月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
名義貸し | 第5条違反により第18条第2号の罰則を適用 | 6月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
重要事項説明書面不交付 | 第8条違反により第19条第3号の罰則を適用 | 30万円以下の罰金 |
立入検査の拒否や妨害 | 第13条第1項の違反により第19条第5号の罰則を適用 | 30万円以下の罰金 |
営業停止命令の無視 | 第15条第1項の違反により、第17条の罰則を適用 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
この記事で紹介した本では、悪徳探偵が増えて社会問題化し、それを規制するために探偵業法が生まれた、平成前半の状況を知ることができます。
では、それ以前の探偵業界はどんな様子だったのでしょう?
そもそも日本の探偵業はいつ頃どのような形で生まれたのでしょう?
こうしたことに関心がある方は、ぜひ下記の記事を読んでみてください。